企画記事

Dig.cards所属プロ行弘賢ロングインタビュー

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すでにDigの社長がゴリ詰めblogで発表されたように、Dig.cardsでは、理想とするプロマジックプレイヤー、そしてプロスポーツとしてのマジックを実現する第一歩として、「プロツアー・アヴァシンの帰還」トップ4など、輝かしい戦績を持つ行弘 賢選手を所属プロとしてスポンサードすることにしました。

そこで、行弘選手に、Dig.cards所属第1号プロとしての心構えから、マジックとの出会い、そして理想とするプロプレイヤー像について語って頂きました。
 

Dig.cardsとの出会い


-- 「改めまして、Dig.cardsのスポンサード、おめでとうございます」

行弘 「ありがとうございます。自分は、多くのプロのように才能に恵まれたプレイヤーではないと自分では考えているのですが、強い目標を持ち続けてプロツアーに出続け、それがこのような形で評価されたことをとても嬉しくおもっています」

-- 「さて、まず、行弘選手がDig.cardsからスポンサードされるに至った経緯を教えていただいてよろしいでしょうか?」

行弘 「はい。最初は、Dig.cardsを運営しているアイアンワークスさんの山崎雄大さんが古くからお世話になってる人なんですが、その雄大さんから『面白い会社からスポンサードされるって話があるんだけど、どう?』みたいな話がありまして」

-- 「元々、行弘さんは和歌山のマナソース所属プロだったと思うのですが」

行弘 「そうですね。かれこれ3~4年ほどお世話になってました。マナソースでは、ショップの店員をやりながらプロ活動をやるという形でした。ただ、腰を悪くしてしまって、ショップ店員の業務をやりきれなくなってしまったんですよね。そこで、話し合った結果、円満に退職することとなり、ちょうど仕事を探そうかというタイミングだったんですよね」

-- 「これから探そうかなというところで、山崎さんからお話があったと」

行弘 「そうですそうです。で、プロツアー前の練習で東京に来ることになっていたので、そのタイミングで若山さんも交えて話をしようということになりまして。とりあえず東京についたら、荷物を置く間も無く、突然タクシーに載せられました」

-- 「怖いですね」

行弘これがウワサの『ゴリ詰め』か、とビクビクしましたが、話自体はすごくいい話をしていただいて。少し考える時間をいただけたんですが、ほとんどその時に所属プロになりたいと考えていましたね」

-- 「ほとんど即決だったとのことですが、Dig.cards所属プロになろうと決めた決定打はなんでしたか?」

行弘 「うーん……ちょっと長くなっちゃいますけど、決めたポイントは3つありましたね。うまくまとめればひとつになるのかもしれないですけど……でも3つですかね」

-- 「3つですか」

行弘 「はい。1つ目は、純粋に提示された仕事が楽しそうだったからです。今回、僕はマジックのプロプレイヤーとしてのスポンサードと併せて、Dig.cardsの運営業務のお仕事もいただいたんです」

-- 「実業団の所属選手みたいなイメージですかね?」

行弘 「そういう感じですかね。で、今、主にやらせていただいてる仕事が、大会情報のページの情報、特にプロツアー予備予選の情報を網羅するために各開催店舗さんに営業や情報確認の電話をするという業務なんですが、自分もショップ店員でしたし、営業のためのコミュニケーションも好きなので面白そうだなと」

-- 「大会情報はDig.cardsの重要な機能ですし、重大な業務ですね」

行弘 「そうですね。責任の大きな仕事を任していただきましたし、実際やってみると思うようにいかない大変なことも少なくないですね。ただ、プロツアー予備予選の情報が網羅されるってすごい便利になる仕事で、そこが埋まっていくことにやりがいを感じますし、なにより、Dig.cardsは若山さんや雄大さんを始めすごい人が多いので、そういう人たちと一緒に仕事をして、色々な経験を積めるというのは僕にはとても魅力的に映りました」

-- 「続いて、2つ目を教えていただいていいですか?」

行弘 「2つ目は、Dig.cardsがやろうとしていることが魅力的だったからです。Blogで若山さんが言っているように、プロプレイヤーへの考え方ひとつとっても、Dig.cardsはマジックやTCGの世界を広げよう、っていうのをすごい考えていて、それを熱く語ってもらって、僕もそれに同意できたってのが大きいです」

-- 「皆さん、すごい熱いですからね」

行弘 「そうですね。Dig.cardsのページを見ても、たとえばアーキタイプ解説みたいに、多くの人がこういうのあれば便利だけど、実現は難しいだろうな、ってことをやっているじゃないですか。まだここでは言えないのかもしれないですが、他にもそこで語ってもらったDig.cardsやアイアンワークスがやろうとしていることは面白いしマジックのためになることが多くて。僕もマジックはもっと面白くなれると思っていたので、すごく魅力的に感じましたね」

-- 「しかも、それを実現できるだろうと」

行弘 「実際に、Dig.cardsってサイトは始まりましたし、少しずつですがさらに良くなっているので実現するパワーのある人たちだなと。あと、大会情報やデッキリストのオンラインレジストなんかは網羅されたら本当に便利な機能だなと思うんですが、そこの実現に自分が仕事として貢献できるという興奮もありましたね」

-- 「最後の3つ目はなんですか?」

行弘 「これが一番大きかったのですが、これまで言ったことを踏まえた上でプロプレイヤーとして自分を雇ってくれたことですね」

-- 「といいますと?」

行弘 「さっき言ったように、僕はDig.cardsの社員としての仕事をしつつ、プロプレイヤーとしてスポンサードをうけるという形なのですが、そこの線引きをきっちりしてくれたんです。Dig.cardsとしての仕事も魅力的なので、そちらの仕事をさせてもらえるのは嬉しいのですが、プロとしての成果報酬だったり、プロプレイヤーとしての立場というものも重視してくれる形でスポンサードをしてもらえることを説明してもらえて。端的に言えばこれまでのプレイヤーとしての実績をしっかり認めてくれて、僕に声をかけてくれたんだなというのを強く実感できたのが大きいです」

-- 「これまでのプレイヤーキャリアに価値を見出してくれていると」

行弘 「はい。僕はグランプリにではじめたのが2007年で、初プロツアーが2009年なので、プロツアーのキャリアは5年ぐらいなのですが、そこまでで自分が積み重ねたキャリアを正当に評価していただけて、仕事に繋げられた、ということがすごく嬉しかったですね」

-- 「自分がマジックをやってきた、ということの価値が形になったと」

行弘 「僕、本当にマジックをやってきて良かったなと常々思っていて。マジックから得たものって本当にバケモンみたいに多いんですよ。ものの考え方もそうですし、なにより人脈もものすごい増えましたし。多分、普通に生活してたら知ることができなかったことや見ることができなかったものを沢山マジックから得ることができたんです」

-- 「そうしてマジックから得たものが、ちゃんと価値として認められたわけですね」

行弘 「そうですね。最初に言ったように僕は本当に色々な才能がない人間だと思っていて。だから、変な言い方ですが、マジックと出会っていなかったら無難でつまらない人生を送っていただろうと思うんです。そうやって得た人生がDig.cardsによって認められたのが嬉しいですし、Dig.cardsを通じて、僕に新しい価値をくれたマジックをより良く広められる手助けができる、ってのがDig.cardsのスポンサードを選んだ理由ですね

-- 「ひとつにまとまりましたね」

行弘 「あ、そうですね。……あ、あと、プロとしての練習環境として東京にでてきたいと思うことは多かったのでそのきっかけになった、ってのもありましたね」

-- 「せっかくまとまったのに、増えるんですね」

行弘 賢とマジック


-- 「マジックとの出会いが人生を変えた、とのことですので、行弘選手とマジックの出会いについても少しお聞かせいただいていいですか?」

行弘 「きっかけですか……僕、元々、小学校からポケモンカードをやっていたんですよね」

-- 「あぁ、世界大会でもトップ4に入ったことがあるほどの腕前だったと聞いたことがあります」

行弘 「日本一、ってのはなかったんですが、長くやっていただけあって結構極まっていて。もう、運以外でオレに勝てるやついないんじゃないかくらいのこと思ってましたよ。今、思えば、若さゆえの天狗だったなとわかるんですけど」

-- 「やっぱり長くやっていると競技志向になりますか」

行弘 「全員が全員とは思いませんけど、長くやっていて、自分の腕前に自信が出てくると、試してみたい、結果を出してみたい、ってなるのは人によっては自然な流れかなとは思います。競技に偏重しちゃう人には、そもそもマジックというゲームそのものが楽しいんだ、ってことは思い出して欲しいかなとは思いますが、でも、競技志向になること自体は否定出来ないですよね。なんせ、僕自身がプロプレイヤー目指しちゃったわけですし」

-- 「そんな中、マジックと出会ったと」

行弘 「そうですね。ポケモンカードはトーナメントの回数がすごく少なくて、トーナメントプレイに飢えていたので、マジックをはじめた時は、とにかく大会の多さに驚いて。友人と少しずつやっていたんですけど、近所でグランプリがあるということで意を決して参加してみました」

-- 「それが2007年……ということは、2007年のグランプリ・北九州ですね。彌永さんが優勝したグランプリ」

行弘 「そうですね。そこでそれなりにいい成績……30位くらいかな。で、当時はアマチュア賞金っていって、プロポイントを取ったことのない人向けの賞金もあって、それも合わせると5万円弱(注:350ドル)の賞金をもらえて。すげーな!こんなにおもしろいゲームなのに、お金ももらえるなんて最高じゃん!ってなって」

-- 「当時の行弘選手は……20歳前後ですか」

行弘 「ですね。貧乏学生だった時期なので、変な話ですけど、賞金がもらえるってすごいなって感じました」

-- 「その他にマジックのトーナメントに出てみて感じたことはありましたか?」

行弘 「さっきも言ったように、当時、僕、天狗だったので。マジックをやって驚いたのは自分よりうまいヤツが山ほどいるな!ってことですね。当時天狗だったから特に思いましたが、これは今でも思っています。とにかく、マジックに関しては果てが見えないんですよ。他のカードゲームからマジックに移った人は、大体これを実感するんじゃないでしょうか。とにかく奥深いゲームなんですよね、ルールは意外とシンプルなのに」

-- 「マジックの持つ奥深さって一体なんなんでしょうか?結構色々あるとは思うので、当時、特に一番思ったこと、でいいのですが」

行弘 「今も思いますし、当時とにかく思ったのは、必要な知識量が多すぎるってことですね。知識量が勝敗に関わる部分は大きいんですが、数多くある知識のどれが役に立って役に立たないかの判断も難しいですし、そもそも多い」

-- 「例えば、ローテーションがあったりですか」

行弘 「まさしくそこで。ローテーションがあるゲームってほとんど無いので、常に新しい知識を仕入れて刷新していかないと勝てないってのはすごいなぁと……本当、e-sportsの世界ですよね。勝つためには練習も含めて、しっかりと知識のバックアップが必要なんですが、どんどん新しい知識が要求されるという」

-- 「古い知識に囚われてると勝てないと」

行弘 「うーん……一概にそうとも言い切れないのがまた難しい所で、絶対的な知識量が力になったり、過去の知識が力になったりってのもあるんですよね。例えば……『モダンマスターズ』って、アーキタイプドラフトって言われるタイプのドラフトテクニックが必要なことが多くて、過去に幾つかそういう環境があったんですが。それを知らなかったら、アーキタイプドラフトやってくる人には勝てないですし、過去のドラフトのアーキタイプのストックが多いっていう絶対的な知識量が必要なことが多いです」

(注:アーキタイプドラフトとは、ドラフトでピックするときに、デッキの完成像がギミックやシステムによって半固定されるため、シナジー重視のピックが求められるセットで行われるドラフトテクニック。単体のカードパワーだけでなく、デッキの構造上必要なパーツをバランスよくピックすることが求められる)

-- 「過去の知識を柔軟に使うことも必要だと」

行弘 「そういう点も含めて、知識の量も使い方も高いレベルで求められるってのがマジックの奥深さのひとつかなと思いますし、当時も部分的にしか理解していませんでしたけどそう感じましたね」

-- 「そんなマジックのトーナメントに圧倒されてしまったと」

行弘 「まだ、トーナメントの入り口にやっとたっただけだな、とは思いましたけど圧倒されたってわけではないですね。いつか、こいつら全員うち倒してやるって思いましたよ」

-- 「すごいですね」

行弘僕は、常に目標を設定してそれにむけてプレイすることを心がけてるんですが、多分、これが最初に設定した目標で、今も最終目標にしていることですね

-- 「ちなみに、当時のプロで印象に残ってる人っていますか?」

行弘 「うーん……当時はカバレージくらいでしか人物像を知らなかったですし、みなさんそこまで今みたいに記事を書いたりしてとかの露出もなかったから、すごい印象に残ってる人と言われると……でも、北九州で対戦した三田村(和弥:プロツアーホノルルチャンピオン)さんは印象に残ってますね」

-- 「三田村さんですか」

行弘 「はい。初日で当たったんですけど……その日、僕のシールドデッキって、1敗しかしなかったですし、客観的にもすごい強いデッキだったと思うんです。で、三田村さんのデッキは、僕の目から見ても弱めのカードが多い普通のデッキだったんですよね。なのに、こてんぱんに負けて。やっぱ、うまい人はうまいんだなって」

-- 「まさしく、さっき言っていた自分よりうまい奴がいくらでもいる、ってのもみせつけられたと」

行弘 「そうですね。で、終わった後に、サインを貰おうとしたら『オレ、プロプレイヤーカードになってないし、プロじゃないから、サインはできないよ』って言って、サインしてくれなかったのもよく覚えてます」

-- 「三田村さんらしいですね」

行弘 「最初のグランプリにでて、とにかく追いつけていない知識量を補うには強い人のコミュニティに入ることが必要だと実感して。カードショップに言って、強い人のコミュニティになかば無理やり入れてもらいましたね。そのころ、(加藤)カズキさん(グランプリ2勝などの戦績を持つ強豪)とかと知り合いました」

-- 「少し時代がすすんで……最初のプロツアーは2009年ということですが、これはプロツアー京都ですかね。PTQを抜けて参加資格を得たんでしたっけ?」

行弘 「そうですね。この1年間のプロツアーは全部出ていますが、すべてPTQで権利を獲得しています。京都は70位とまずまずの成績でしたが、残りのふたつ(ホノルルオースティン)は初日落ちでした」

-- 「初プロツアーはどうでしたか?」

行弘 「決勝戦はLSVとナシフっていう僕から見たらレジェンドみたいなプレイヤーの対戦で興奮はしました。でも、一番刺激に成ったのは、山本明聖と棚橋雅康っていう初出場のふたりがトップ8に入賞したことですね」

-- 「先を越された!みたいな?」

行弘 「そういう気持ちももちろんあったんですけど、むしろ勇気をもらいましたね。あぁ、プロツアーのトップ8は全然遠いんじゃなくて、オレだって頑張れば行けるんだ、って」

-- 「当時はまだ、トップ8入賞できる、ってほどの自信はなかったと」

行弘 「自信がなかったってわけではないんですけど……ただ、まだまだ自分の実力も情報量も情報の処理能力も足りなかったって実感はさせられましたね。当時、赤白GAPPOっていう今で言う赤白ミッドレンジみたいなデッキがあったんですが。デッキの存在は知っていたんですけど、まさかあんなに使用者がいるとは思っていなかったんですよね」

-- 「決勝の二人は、その赤白GAPPOと、トップメタだった青黒フェアリーを強く意識したデッキでしたもんね」

行弘 「そうですね。明聖もきちんと赤白GAPPO使ってますしね。みんな、ちゃんと強いデッキを知ってるんだな、と情報格差を実感しました。僕は、フェアリーしか意識できていなかったので。その後、明聖とはその後、世界選手権の調整を通してすごく仲良くなりましたが、常に刺激をうける相手でしたね」

-- 「そして、翌2009年の北九州でプレミアムイベント初のトップ8入賞を果たしたわけですね」

行弘 「この時は、世界選手権へ出場するためにトップ4入賞が必要だったんですが、最後に無理やり辻褄があって。このころから、最後に辻褄をあわせる感じでしたね。実は、僕、最初のプロツアーから今まで、全部のプロツアーに皆勤賞なんです。これは密かに今後も目標にしていきたいですね」

-- 「プレミアイベントでトップ8入賞した感想はどうでしたか?」

行弘明確に、世間の目が変わりましたね。PTQ突破した時の地元の反応もそうなんですが、やはり実績を出すと、周りも自分の意見を聞いてくれたり、自分と調整をしてくれるようになるんです。そうやって、だんだんとステップアップしながら情報格差を埋めていったなと思っていて。ただ、当時はまだまだ自分より上のコミュニティで情報を持ってる人たちはいるなと思ってました」

-- 「それを強く実感したのはいつですか?」

行弘 「翌年のプロツアー・サンディエゴでしたね」

-- 「この時は使用しているナヤデッキのインタビューが公式のカバレージに掲載されてますね」
 
Stoneforge Mystic / 石鍛冶の神秘家 Basilisk Collar / バジリスクの首輪 Cunning Sparkmage / 狡猾な火花魔道士

行弘 「まさにそれで。この時のナヤデッキはすごい自信があったんですけど、同じカラーでより強いボスナヤっていうデッキがあって。 《石鍛冶の神秘家》 《バジリスクの首輪》 持ってきて 《狡猾な火花魔道士》 に装備させるみたいなデッキなんですけど、なに、そのリミテッドコンボみたいなデッキって思ってたらものすごい強くて……まだまだ自分の知らない世界はあるなと感じさせられました」

-- 「とはいえ、次のプロツアー・サンファンと、デッキビルダーとして着実に評価をあげていましたよね」

行弘 「そうですね。それまでの僕は、どうしても自分のオリジナルのデッキで勝ちたいという気持ちが強すぎて。もちろん、自分のデッキで勝てるのが一番いいんですけど、プロツアーは勝つための場なので、そういう意味ではまだプロツアーにでてるだけのアマチュアプレイヤーだったのかもしれません。この頃から、自分の作るデッキと、強いと言われているデッキを公平に見れるようになっていったので、だんだんとデッキが勝てるようになっていったのかもしれないですね。今では、プロツアーは、オリジナルデッキであるかどうかが重要なのではなくて、前もってどれくらい環境を予測して、それへの対面メタができるかが大事だと考えています」

-- 「プロプレイヤーとしての心構えができてきたと」

行弘 「そうですね。といっても、当時は対人戦が中々出来なかったので、次のプロツアー・アムステルダムではオリスチャントとか作っちゃってるんですけどね」

-- 「先程、少し話題に出たように、その後も着実にプロツアーに参加し続けていったわけですね」

行弘 「まぁ、権利がなくなりかけては、なんとか辻褄あわせて権利を獲得、みたいな綱渡りも多かったですけどね」

-- 「とはいえ、2010年の日本選手権も9位とオポーネント落ちとはいえ、2日目全勝してという素晴らしい成績ですよね」
 
Goblin Guide / ゴブリンの先達

行弘 「あの日本選手権は男泣きしましたね。とはいえ、例えば、今できないようなプレイとかあって。樽元気さんとの対戦で、1ターン目の 《ゴブリンの先達》 のアタック前に投了っていうプレイをしていて」

-- 「アタック前に投了?どういうことですか?」

行弘 「メインボードでは赤単に99%勝てないデッキだったんで、相手に少しでも情報を与えないようにしようと思って。それでサイドプランを崩せたからかどうかはわからないですが、そのマッチは勝てましたね。頭ではわかるんですけど、今では思い切ってできないプレイだなとも思うので、こういうプレイをたまにはできるようになりたいです」

-- 「そういうプレイはハマるとかっこいいですよね」

行弘 「あと、そのころのプロツアーで記憶に残ってるのは、2011年のプロツアー名古屋ですかね」

-- 「どういうことがあったんですか?」

行弘 「なんもなかったんです」

-- 「え?」

行弘 「ほんと、なんもできないで初日落ちして。もう、プレイミスも圧倒的に多くて何が何だかわからない時もあって、オレってこんなに下手だっけなと実感させられて。なので、2日目は大塚(高太郎:プロツアートップ8二回、日本王者などの戦績を持つ強豪)さんと一緒にツーヘッドのサイドイベントに出させてもらって色々と教えてもらいました」

-- 「その後のプロツアー・フィラデルフィアでは渡辺雄也選手と一緒に調整したんですよね?」

行弘 「そうですね。それ以来、情報交換をさせてもらってますし、やっと、情報格差に関しては追いつけてきた、という感じではあります」

-- 「そして、2012年はグランプリ・神戸で準優勝、そして、初のプロツアートップ8となるプロツアー「アヴァシンの帰還」とつながっていくわけですね」

行弘 「やっぱり、実績を作ることでプレイヤーとしての価値を世間に認めていってもらうっていうのがプロを目指す上では最低限必要なことだと思います。もちろん、それはそれとして、初個人タイトルだったグランプリ・シンガポールは感無量でしたけどね。今度、シンガポールのグランプリがあるのでディフェンディングチャンピオンとして参加するつもりです」

-- 「その後も継続的に戦績を残し、今回のDig.cardsのスポンサードにつながったわけですね」

行弘 「はい。こういった僕の実績を見ていただけて価値につなげてもらえたってのはすごく嬉しいです」

-- 「行弘選手といえばニコ生の配信でも有名ですよね」

行弘 「これは2011年の頭くらいからやらせていただいてますね。当時、まだニコ生で配信しているプロってほとんどいなかったので、自称プロってつけて注目度を上げて、やってみよう、って思ったんですよね」

-- 「各メディアで記事を書いてらっしゃることも含めて、セルフプロデュース力が高いですよね、行弘選手は」

行弘 「いや、目立ちたがりやなだけで。ただ、知名度が無いプレイヤーだったので、なんとかして知名度を上げたい、と思って配信をやりたいと思いましたね。もちろん、単純に面白そうってのが一番大きいですけど」

-- 「実際に、配信をやってよかったと思うことってありますか?」

行弘 「うーん……知名度もそうなんですけど、配信をやるためにMagic Onlineをやる頻度があがって、それでプレイスキルがあがったってのはあります。最終的には対人戦は必要ですが、ベースになる技術をみにつけるためなら、Magic Onlineは良いツールです」

-- 「配信といえばでお馴染みの市川プロや、最近では原根選手もMagic Onlineでの練習の重要性を語られてますね」

行弘 「僕は彼らの先駆けです!嘘です!」
 

行弘 賢にとってのプロプレイヤー像


-- 「長くなってしまいましたが、最後に、行弘選手にとっての理想のプロプレイヤー像っていうのを聞きたいなと思うのですが……」

行弘 「難しいですね……少なくとも、僕はプラチナや殿堂経験者はみんな尊敬できる部分があるとは思っています。例えば、三原(槙仁:世界王者を含むプロツアートップ8入賞5回の殿堂プレイヤー)さんは、社会人をやりながらあれだけのアベレージを出すっていうのは本当に尊敬できますし、ナベ(渡辺雄也)は、とにかく練習量のすごさとそれをきっちりと勝利につなげるセンスは尊敬できますし目標ですね」

-- 「渡辺選手と行弘選手は同世代ですよね」

行弘 「そうですね。だから……目標というよりは、ちょっとデカイこといえばライバルですね。もちろん、ナベはまだまだ僕の全然先を走っているプレイヤーですが、彼の背中を捕まえて、そのうち肩を並べて、そしていつか追い抜きたい、そう思ってマジックをやっています。身近にそういうプレイヤーがいるということは本当に幸せですね」

-- 「行弘選手からみた渡辺選手のすごいところってどこですか?」

行弘 「さっき言ったように、練習量のすごさなんですけど、なにより、結果を出し続けているということですよね。僕は、やっぱり、まずはプロは結果を出さなければならないとは思いますので。なんでも勝てばいい、ってわけじゃないんですけど、ただ、勝たないでプロを名乗ることはできないですよね。目標となれる、尊敬されるプレイヤー像を持ちつつ結果を残すそうできて、初めてプロを名乗れると思います」

-- 「プロツアーで結果を出して、さらにそれを次の価値に繋げられるのがプロだと」

行弘 「そうだと思います。最近、昔よりプロということへの意識が強くなっていて。もちろん今言っていたどういうプロとして見られるか、ってのもそうですし、結果を残すという部分でも昔は、プロツアーは自分を試す場だったんですが、今は、プロツアーでどうやれば勝てるのか、つまり結果を出す方法を探してます」

-- 「なるほど。ちなみに、今回のスポンサードを踏まえてお尋ねしたいのですが、マジックのプロプレイヤーってスポンサードされるだけの価値がある存在だと思いますか?」

行弘 「間違いなくあります。Bigmagicさんと瀬畑くん(市川ユウキ)の関係なんかがそうですが、双方のブランド力を高くする効果があります。そのためにも、プロが自分たちの価値を高めて、それをスポンサー側に還元していく必要はありますよね」

-- 「たとえばどんなかんじですか?」

行弘 「プロが、自分たちが積極的に広告塔にならなければ価値が薄まりすぎてしまう可能性は高いなと思うんですよね。他のスポーツのスポンサードと違って、マジックのプロの場合は、例えばスポーツウェアが売れる、みたいなのはあまり無いじゃないですか」

-- 「渡辺プロ仕様のカードプロテクターとか売れそうじゃないですか?」

行弘 「売れるのかな?売れるかもしれないですね、ナベなら。でも、それはナベにそれだけの価値がある、ナベに憧れるプレイヤーがそれだけいる状況をナベが作ったからですよね。多分、スポンサーする側からすれば、プロに求めるのは広告効果だと思うので、それが最大化される状況じゃないとスポンサードプロっていうシステム自体は成立しなくなっちゃうのかなと。Channel Fireballって、最初はかなり人数が少なくて、それであこがれにつながって、それが広告効果になっていたけど、だんだん人が増えすぎてなんとなく『そういやチャネルかー』みたいな感じになっちゃったりしてたりしませんか?」

-- 「たしかにそういう側面はあるかもしれないですね」

行弘 「結びつきが薄い、とりあえずスポンサードしたプロ、ってのが増えていくのはあまり双方にとってよくないとは思います。そういう意味でも、ある程度の希少価値を持って憧れにつなげるのは必要なのかなと」

-- 「なるほど。ちなみに、行弘選手の考える憧れられるプロプレイヤー像ってなんでしょうか?」

行弘 「ひとつは希少価値です。スポンサードされるってことがブランド力を大きくするのは、それ自体が希少価値があるプレイヤーを生んでいることですしね。でも、なによりも実績ですよね。実績がすごければすごいほど、それを達成している人が少ないから希少価値がうまれるわけで。自分はまだまだそこまでの実績がないので、その点でもっとあこがれられるプレイヤーになりたいですね。瀬畑くんの2連続トップ8とかそうですが、記憶か記録に残る勝ち方をできるのがプロだと思います」

-- 「実績以外の面はありませんか?」

行弘 「最終的にはそこが重要ですよね。記憶に残る、ってのがまさしくそうなんですが、興味を持ってもらえる存在になるってのは大事です。ホント、大事なことなんですが、実績が重要だからといって勝ちにこだわり過ぎると、魔が差したり、人にあたりが厳しくなったりすることはあると思います。でも、そういう時には最初に自分がマジックと出会った時の気持ちを思い出して、勝ちにこだわりすぎる気持ちをこじらせないようにすることが大事ですよね。そうでなければプレイヤー像として、尊敬や憧れにはつながりにくいと僕は思います。そういう意味では、津村なんかは理想のプレイヤー像ですよね」

-- 「マジックはコミュニケーションツールですからね」

行弘 「そうですそうです。最初に言ったように、僕はマジックから本当に多くのものをもらっているのですが、それって、マジックがコミュニケーションツールとしても優秀だったからなんです。だから、そんなマジックのコミュニケーションツールとしての部分を阻害してしまうのは、僕は絶対にありえないと思います。ただ、意識をしてないと大変ですけどね。僕も感情を表に出しやすいタイプなので、知らない人とプレイするときは、自分のモノサシで考えずに相手に不快感を与えないように考えたいですし、相手が逆に境界線を超えてきても気にしないという対応をしたいです。そういう中でマジックから学ぶものもありますしね」

-- 「非常に志の高い考えですね」

行弘正しい心を持ってマジックをやる、ってのは大事です。でも、これって理想論だけじゃないんですよ?マジックを強くなるためにも必要で。っていうのも勝ちにこだわる心をこじらせすぎると、まともな反省ができなくなるんです。負けても「あー、負けた、むかつく」みたいになっていっちゃうんで。そうじゃなくて、負けともちゃんと向き合えた方が強く慣れますし、そのためにも正しい心を持ってマジックに接していたいと僕は思っています」

-- 「謙虚さが必要、ってことですね」

行弘 「そうですね。それであってこそ、初めて、見られるプロとなれると思います」

-- 「最後に、Dig.cardsのスポンサードプロとして、このインタビューを読んでいる人にメッセージをください」

行弘 「最初に言ったように、僕は他のプロに比べて、決して才能があるわけではないと自分では思っています。でも、常に強く新しい目標を持ち続けたことで、ここまでプロプレイヤーを続けられましたし、今回、こういう形でDig.cardsでスポンサードされるという形で評価してもらえました。だれでも僕のようなプロにはなれると思います。だから、多くの人に目標になってもらえるプロを目指し、そして、Dig.cardsのプロになりたいなと思う人がひとりでも増えるように活動していきたいと思います」

-- 「本日は、ありがとうございました」

 
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