企画記事

渡辺雄也・佐々木大輔特別対談:メディアとしてのプロプレイヤー(後編)

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渡辺雄也・佐々木大輔特別対談:メディアとしてのプロプレイヤー(前編)

日本を代表するマジックのスタープレイヤー、渡辺雄也。

LINE株式会社の執行役員でありながら、マジックファンとしてのスタンスを隠さない、佐々木大輔。

この二人による『メディアとしてのプロプレイヤー』対談。

前編では、『プロとしての価値』がなぜ、渡辺にあるのか、そしてそれは何のために使わるべきかについて佐々木が語り、渡辺は自身のプロプレイヤーとしての矜持であるストイシズムについて語った。

そして、後編では、ふたりは、『マジックのプロ』がマジックのためにできることについて熱い議論を交わす。
 

■映像メディアとテキストメディア



渡辺 「僕も、今回佐々木さんと対談するということで質問を用意してきたんですけど、いいですか?」

佐々木 「はい。なんでしょう?」

渡辺 「今、ニコニコ生放送でプロツアーやグランプリが生中継(注1)されていますよね。で、僕はいつも出る側なので、基本的に見たことがないんですよ。帰ってからタイムシフトで見ようにも、2日分とかだと時間がかかってしまうので見れませんし。で、あの放送ってどういう風に見えてるのかってすごい気になるんですよね。見てる人に感想を聞いたりはするんですが、やはり友人だったり業界の人だったりするので、業界の外の人で、しかも佐々木さんみたいな人がニコ生をどういう風に評価してるのか知りたいんです」

佐々木 「なるほど。あれはなんといっても放送内容がとんでもなく充実していますよね。プロツアーをリアルタイムに体験できる素晴らしいコンテンツだと思います。特に5月に開催されたグランプリ千葉/ユトレヒト/ラスベガス(注2)。世界3箇所をリレー中継した52時間連続生放送なんて前代未聞じゃないですか?あれは世間にもっと広く知られるべきニュースですよ。インターネットメディアの活用事例として、マジックでは画期的なことが数多く起こっていると思います」

渡辺 「楽しんでいただけてるなら安心しました」

佐々木 「ただ、カバレージのあり方については最近思うところがあるんですが、テキストのカバレージ(注3)に代わって、映像でのカバレージが増えていますよね。これはマジックに限らないインターネットメディア全体の流行でもあるんですが、映像で記録を残すということが過剰に高く評価される風潮があると思っています

渡辺 「でも、映像の方が情報量を多く記録できるので、後々もいいんじゃないかと思うんですが、違うんですか?」

佐々木 「確かに、情報量は多いんです。そしてそのほうがいいと、一般的には思われていますね。ちょっと前までのインターネットは、貧弱な端末や貧弱な回線を前提にしていたので、テキストが中心だったんです。ウェブでいえば掲示板やブログ、メールもできるだけ少ない文字数でやりとりするのが当たり前で、画像やPDFのような重たいデータを添付するのはマナー違反ですらありました。それがスマートフォンの時代になると、端末の処理能力も回線の品質も大幅に向上して、それを前提にしたサービスが中心になってきたんですよ。コミュニケーションも、写真や動画を使ったものへとトレンドが移り変わってきましたよね。でもそれは、なにもインフラが整ったことだけが理由じゃないんですね。なぜなら、映像で情報をやりとりすることって、人間にとってそもそもすごく自然なことなんですよ。映像っていうのは、こうして対面してお話している時に得られる情報そのものですからね」

渡辺 「今みたいに、僕と佐々木さんが話してるみたいにってことですか?」

佐々木 「はい。実際、今、お互いが目の前にいて、映像や音声を情報として捉えてコミュニケーションしていますよね。そのほうが情報量が多いし、早いし。そもそもこんなときにテキストでやり取りするほうがよっぽど不自然でしょう?(笑)」

渡辺 「たしかに、調整でも、普段はグループチャットとかで情報交換してますけど、直接あって話をする方がより効率がいいですね」

佐々木 「映像の方が情報量が多いので、リアルタイムに情報を処理しあえる場合はそうするほうが自然なんですよ。だから、SNSやスマートフォンでコミュニケーションしようとする場合に、どうしたって映像を使いたくなるのは当然で。じゃあ一方で、テキストはなんなのかというと、元々、遠く離れたところにいる人にメッセージを伝えるための道具なんですよ。石やパピルスや紙やウェブ。そういったものに書かれる言葉は、手紙でも本でもブログでもなんでも、いまここにいる人ではなく、いつかどこかでその言葉に出会う誰かのために書かれているわけですね」

渡辺 「ニコ生は、遠くはなれているから映像が向いていないってことですか?」

佐々木 「いや、遠さというのは、地理上の問題ではなく、時間上の問題なんです。リアルタイムで見れるなら、映像のほうがダントツに面白いと思います。距離が遠ければなおさらリアルタイムで見られる感激も大きいですよね。でもそれが、遠い時代のためのものとなると、テキストのほうが向いているわけです。動画は情報が多すぎることが徒になって、未来に残すものとしてはかえって向いていないんですよ。実際、渡辺プロも帰宅後にタイムシフトを見ることがないわけじゃないですか」

渡辺 「時間を取られてしまいますからね。テキストの方が自分のペースで読めますし、時間もかからないですね」

佐々木 「テキストは、情報量としてはすごく貧弱なんですよ。でもそれがいいんです。だからこそ、コンテンツとして成立させるにはしっかりとした骨組みが必要で、結局、骨組みだけが時代を超えて残っていくんだと思うんです。映像に含まれていたディテールの多くはそぎ落とされてしまいますが、人は想像力を持って、その骨組みに肉付けしながら読みますから、自分のなかでイメージが再現できるんです。与えられたものではない、自分が描いたイメージだから、なおさら印象が強くなるんです。プロツアーなどのイベントを、リアルタイムに共有するためのメディアとして動画の生中継があるのはいいのですが、記録として未来に残すものとしては、テキストカバレージが欠かせません

渡辺 「たしかに、ニコ生のタイムシフトは見ないですけど、過去のテキストカバレージを読み返すことは多いですね。僕の現時点でのライフタイムベストの対戦は、2008年日本選手権での準決勝(注4)、大礒(注5)戦なんですけど、もう、何回もカバレージ読んでますよ」

佐々木 「そうですよね。なので、僕はテキストの記録こそ残すべきだと考えているんです。映像しかなかったら、とてもじゃないですけど過去の大会の記録なんて振り返れないですよ。カバレージを残すのは、撮りっぱなしの動画を残すより数倍も大変なことなので、そうしたサイトを運営されている方々やライターのみなさんには本当に頭が下がります。未来に知識と記録を残すための、本当に偉大な仕事だと思います」

渡辺 「それは僕も同感です」



佐々木 「ちなみに渡辺プロ、僕は、大会のカバレージだけじゃなくて、渡辺雄也という人物の知識や考え方もテキストの記事として残されるべきだと考うんですが……ぜひ、もっと記事を書いくれませんか」

渡辺 「そうですねぇ……できるだけ頑張ってみます。あと、今回みたいな対談だったり、インタビューだったりという形でだったら、テキストを残すために協力することがよりやりやすいですね」

佐々木 「そういわず、LINE BLOGの方も、ぜひ!」
 

●注釈

注1:ニコニコ生放送でプロツアーやグランプリが生中継

マジックチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/mtgjp

プロツアーでは、2013年のプロツアー「ドラゴンの迷路」から、グランプリでは同年のグランプリ北九州2013よりニコニコ生放送公式チャンネルにて、日本語での動画配信が始まっている。
これまでもプロツアーにおいては英語版公式での動画配信があり、国内プロツアーに限っては併せて日本語版解説も行われていた場合もあったのだが、ニコニコ生放送開始後は海外プロツアーや国内グランプリでも日本語解説付きの動画でリアルタイム観戦が可能となった。
日本最初の殿堂顕彰者である藤田剛史選手を始め、浅原晃選手・鍛冶友浩選手といったプレイヤー・ライターに定評のあるメンバーが解説を行っている。

また、過去の対戦動画がアーカイブとして公式チャンネルで公開されている。

http://ch.nicovideo.jp/mtgjp/video

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注2:グランプリ千葉/ユトレヒト/ラスベガス

こちらマジック広報室!!:『モダンマスターズ 2015年版』発売!来週末はグランプリ3会場より52時間連続生放送!!
http://mtg-jp.com/reading/kochima/0014964/

グランプリ千葉2015
http://coverage.mtg-jp.com/gpchi15/

グランプリユトレヒト2015
http://magic.wizards.com/en/events/coverage/gputr15

グランプリラスベガス2015#1
http://magic.wizards.com/en/events/coverage/gpveg15-1

グランプリラスベガス2015#2
http://magic.wizards.com/en/events/coverage/gpveg15-2

「モダンマスターズ・ウィークエンド」として日本・ヨーロッパ・アメリカで同日開催されたグランプリ。時差の関係上、3会場の生中継を行うことが可能であり、日本からユトレヒトとラスベガスへと特派員が派遣され、52時間の連続生放送が行われた。
なお、ラスベガスの大会が2つ存在しているのは、7551人という参加人数から同会場内で2つに分割された別々のグランプリが開催されたことによる。
通常のグランプリ以上に「お祭り」の要素が強い大会であり、それを象徴するのが、サイドイベントとして突発的に開催された八十岡選手による寿司ドラフトである。

八十岡翔太の寿司ドラフト
http://coverage.mtg-jp.com/gpchi15/article/015141/

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注3:テキストのカバレージ

イベントカバレージ
http://coverage.mtg-jp.com/

ニコニコ生放送による動画配信とは別に、伝統的にマジックのトーナメントでは準リアルタイム更新でのテキスト形式のカバレージが掲載されている。
現在の日本語公式サイトmtg-jp.com発足した2009年以前からも日本語カバレージは用意されており、英語版カバレージアーカイブから、「日本語の取材へ」のリンクで日本語版カバレージを見ることが可能だ。

Coverage Archive
http://magic.wizards.com/en/events/coverage

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注4:2008年日本選手権での準決勝

Semifinals : 渡辺 雄也(神奈川) vs. 大礒 正嗣(長野)
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/jpnat08/welcome-ja#10

青白ヒバリ同型対決となった大礒選手との試合であったが、マナ加速とクリーチャーに偏重し盤面での戦いを重視するチューンの渡辺選手のデッキは、カウンターと軽い手札補充手段である 《祖先の幻視》 を投入した大礒選手のデッキとの相性がすこぶる悪く、試合開始前に「絶対に勝てないと思います」とこぼすほどだった。
Game 1は場の優位を維持するために5マナの状況で打たされた 《否定の契約》 後に土地を戻され契約死、Game 2は土地を引けないうちに戦場に出た時にバウンスをするクリーチャーを 《一瞬の瞬き》 で使いまわされ、マナを使わせてもらえないうちにクロックを用意されつつ手札を補充され、その優位を維持されきって敗北。Game 3こそ先手の有利を活かして勝利したものの、後手となってしまったGame 4。
クリーチャーと 《変わり谷》 によって大礒選手のライフを4まで追い詰めたものの、バウンスによって凌がれ、最終的に大量の手札とマナを使用できる状況を大礒選手に与えてしまい、逆転負けをすることとなった。「完全にプレイレベルの差で負けた」と感じた渡辺選手はこの対戦が転機になったと折にふれて語るようになった。

なお、その後の3位決定戦で勝利した渡辺選手は、自身初の日本代表権利を獲得している。

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注5:大礒正嗣選手

2012年マジック殿堂選出。通称「世界のISO」「ルーキー」。
プロツアー横浜03での準優勝によって同シーズンのRookie of the Year(最優秀新人賞)を獲得し、プロシーンにデビュー。愛称である「ルーキー」はこの受賞に拠る。
プロツアートップ8入賞6回は津村選手と並びトップタイ。なお、この6回の入賞はすべて別の順位となっている。
2008年に日本王者となり日本代表となった他、2005年の日本選手権でも3位入賞によって代表権を獲得しており、同年の世界選手権では日本初の国別対抗戦優勝をもたらしている。
海外グランプリに積極的に遠征し始めた最初期のプレイヤーの一人であり、海外でも圧倒的な知名度を誇る。
また、プレイヤーとしての評価は国内外を問わず圧倒的に高く、全盛期であった2003年~2006年シーズンを知る多くのプロプレイヤーが日本歴代最強プレイヤーとして、当時の大礒選手の名前を挙げる。

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■革命は周縁からおきる


渡辺 「僕はカバレージを書かれるのも嬉しいですし、読むのも好きなんですが、実際、マジックのテキストカバレージの文化って、TCGの中で考えても独特(注6)というか、圧倒的に進化をしていますよね。大会に参加するモチベーションをテキストカバレージが盛り上げてくれてるっていうのは、マジック独特なのかなって」

佐々木 「マジックの場合、映像で記録を残すことが難しい時代からトーナメントのレポートがありましたからね。その分、テキストで多くの記録が残っているし、技術や歴史の蓄積も大きいのかもしれませんね?」

渡辺 「映像でしか記録が残っていないとしたら、こんなに昔の対戦のことをみんなしってたりはしないんでしょうね。そう考えると、佐々木さんが言っていた『プロとしての価値』も、プロツアーがあるという以上にマジックという文化だからなのかなとも思います」

佐々木 「実際、TCGの中だけでなく、メディア全体でみても、マジックがインターネットで行っている取り組みは注目されるべきものだと思います。以前、『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である』(注7)という本に掲載されたインタビューで、注目のウェブサイトを挙げてくれという質問にmtg-jp.comと答えたことがあります。メディアの本流から離れたゲームの世界で、どんな驚くべきことが起こっているのかもっと知ってもらいたい、という気持ちがあったんです」

渡辺 「そんなにすごいんですか?僕は中にいるからかわからないんですが」

佐々木 「すごいですよ。『革命は周縁から起こる』(注8)という言葉がありますが、インターネットメディアの活用方法についても、TGCの現場から新しい取り組みが生まれているんですよ。それが世間であまり知られていないのを、いつも残念だなと思っています」

渡辺 「革命って、具体的にはどんなこと何ですか?」

佐々木 「わかりやすいのは、HappyMTG(注9)ですかね」

渡辺 「今は晴れる屋のサイトに統合されてますね」

佐々木 「HappyMTGというのは、実体としては、晴れる屋というショップが運営しているウェブサイトだったわけですが、商品を宣伝するためのサイトじゃないんですよね。自分たちのお店を、なによりマジックというゲームを好きになってもらうためのメディアなんですよ。有益な情報や催し物を提供することで、コミュニティに貢献する。マジックファンに喜ばれることなら、お店の利益をときに度外視しても実行する。そうした積み重ねが、晴れる屋トーナメントセンター(注10)というリアルな場所につながって、カードショップとして大成功しているというね。具体的にいうと、オリジナルレシピを持ち込んで晴れる屋TCで結果出してHappyMTGに載ってうれしい、って感じるプレイヤーがいるということですね。私もそうでした。ネットのメディアとリアルの店舗をこんなに美しくつなげて運営している事例は、なかなかないです。今、ウェブのビジネスの世界ではこういうのを「オウンドメディア」と呼んだりしていて、「北欧暮らしの雑貨店」なんかがその代表事例としてよく取り上げられるんですが、HappyMTGが成し遂げたことのすごさはなかなか業界でも話題になっていない。でも、オウンドメディアの成功事例としてセミナーを開いたら引っ張りだこだと思いますよ。頭でっかちな理屈ではなく、実地から生まれたメディアの先端事例がこんなところにあるんだ!と驚くと思います

渡辺 「そこまで革新的だったというのはわからなかったですね……この辺、中にいるとわからないものですね」

佐々木 「通販専門だった晴れる屋が、メディアをうまく使って数年でここまで成長したというのは、本当に素晴らしいことだと思います。そして、今度はDig.cardsじゃないですか。この野心的なメディアが、渡辺雄也やTCGという文化にどうやってスポットライトを当てていくのか、本当に注目していますね。ゲームとしてのマジックだけでなく、周縁で発生している様々な面白いことがより世間に知られていってほしいなと思います」

渡辺 「僕も、マジックじゃないと出会えなかっただろうな、っていう面白い人にかなり会いましたが、すごい人が実際に多いですよね」
 

●注釈

注6:マジックのテキストカバレージの文化って、TCGの中で考えても独特

文中では言及されていないが、他TCGに比べ、マジックのカバレージ文化が進化した背景には、マジックがトーナメントプレイを重視しており、国内外を問わなければ、定期的にグランプリやプロツアーといった公式のトーナメントが開催されている点も大きい。

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注7:『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である』

いしたに まさき著(技術評論社)。著名ブロガー総勢110名へのインタビューをもとに、ネット上での情報発信について切り込んだ本。
2010年に刊行された同書のインタビューで佐々木氏は当時週刊連載が始まったばかりであったmtg-jp.comの名前を注目のサイトとして挙げている。
なお、現在は電子書籍版も入手可能。

https://gihyo.jp/dp/ebook/2013/978-4-7741-5730-6

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注8:『革命は周縁から起こる』

歴史上、革命や変革が現体制である中央ではなく、離れた文化圏から発生することをさした言葉。明治維新における薩長同盟などが典型例として挙げられる。
政治的な革命だけではなく、技術革命やイノベーションなどでも同様の現象がみられる。
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注9:HappyMTG

晴れる屋記事トップ
http://www.hareruyamtg.com/article/

晴れる屋デッキ検索
http://www.hareruyamtg.com/jp/deck/search.aspx

現在は晴れる屋総合サイトに統合されている記事ページ、及びデッキ検索ページの前身となったマジック総合ポータルサイト。
有名プレイヤーによる記事や、定期的なメタゲーム観測記事、晴れる屋のイベントやグランプリサイドイベントのカバレージが掲載されており、日本語公式サイトであるmtg-jp.comに続いて多くの情報を得ることができるサイト。
また、公式サイトに無いメディア機能として、世界各地の大型トーナメントや、毎日開催されている晴れる屋店舗でのトーナメントでのデッキリストがデータベース化されており、日本語でデッキリストを手軽に手に入れられる環境を作るのに大きく貢献した。
現在も良質の記事・動画・観戦記事がハイペースで提供されており、また、『Hareruya Pros Blog』では所属プロによる生の声に触れることができる。

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注10:晴れる屋トーナメントセンター

高田馬場に2013年に開設された300席を有する日本最大・世界有数のマジック専門店。
平日は、スタンダード・モダン・レガシーの各フォーマットでそれぞれ三回のトーナメントが開催され、休日には大型イベントが開催される。また、希少な絶版カードの豊富さを始めとして、マジック関係のもので売っていないものは無いとまで言われる品揃えと徹底的にプレイヤー視点で準備されたスペースや備品など、『マジックの聖地』と呼ばれるに相応しい場所として日本各地からマジックプレイヤーが集う場所となっている。

オーナーは2007年Player of the Yearの齋藤友晴選手。

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■努力と天才



佐々木 「渡辺プロは自分がマジックをやる時に使っているスキルの中で、どこまでがどんな環境でも応用が効くベーシックな技術で、どれくらいが環境特有で身につける技術だと考えていますか?」

渡辺 「そうですね……9:1くらいですかね」

佐々木 「9割!それくらいベーシックな技術は大事ですか」

渡辺 「いや、逆ですね。9割が環境ごとに改めて身につける技術ですね。なので、練習も量をやらなければ勝てないですし、そもそも、技術を身につける時間が短い環境初期はかなり苦手なんですよね」

佐々木 「新しく身につけることって、そんなに多いんですか」

渡辺 「はい。ヤソ(注11)なんかは環境初期でもものすごい強いので人によるのかもしれないですけど。僕の場合は、とにかくより多くの状況に出会って、プレイをパターン化していかないと、正解のプレイに辿りつけないですし、そもそも、自分の選択を自信を持ってプレイすることができないので……。環境後期になると、蓄積したパターンで的確なプレイを自信持ってできるようになるので、そうなるとヤソとも戦えるようにはなりますね」

佐々木 「個人的に好きなので将棋の喩えになってしまって申し訳ないんですが、以前から常々、渡辺雄也は大山康晴(注12)、八十岡翔太は升田幸三(注13)だと思っていたんですが、今の話を聞いて、やはりそうなんだなと改めて思いました。努力型の渡辺と、天才型の八十岡というか。ところで、そうなると渡辺プロの言う1割のベーシックなスキルが気になるのですが、どんなスキルなんですか?」

渡辺 「なんだろう……マリガンとかが一番、環境ごとの習熟度がでるんですよね……ただ、さっきパターン化っていいましたけど、より効率的で的確なパターンを構築するためには、ゲーム自体への理解度の高さが必要なので、その部分がベーシックな技術といえるんじゃないかな、と思います。こういうと、相当根源的で重要な部分がたったの1割かってなるかもしれないんですけど、それくらい、量の練習をすることを僕が重視しているということですね。ただ、量を練習したものをより効率よく自分の中で処理できる技術は同じで、そこの部分で僕は地力が成長していくのかとは思います」

佐々木 「そのゲームの理解度や練習量も含めてでいいのですが、今までのプロツアーキャリアの中で、自分のレベルがあがったな、と明確に感じた瞬間っていつでした?」

渡辺 「最初の3年間は、自分が成長しているという実感をしっかり持ててましたね。1年目はプロツアーに出会って、2年目はさっきも言った試合で大礒に完膚なきまでに負けたことで自分にはまだまだ壁があると奮起したことで、3年目は、リミテッドと出会ったことで、自分が成長したなぁと感じてましたね。今も成長している、成長しようという気持ちではマジックをやっているのですが、あまり伸びたという印象はないんですよね。これはあまりよくないですね……」

佐々木 「ちなみに、今、ライバルというか、自分よりも強いなと思う選手っていますか?」

渡辺 「海外のプレイヤーでいいなら、世界選手権2連覇のシャハール・シェンハー(注14)とウィリアム・ジェンセン(注15)ですかね。どちらも、今の僕ではかなわないものをもっていますね。シェンハーには、若さで負けてますね。僕もプロシーンの中では若いほうだとずっと思っていたんですが、自分より若くて強いプレイヤーの登場は驚愕でしたね。トーナメントでのプレイって、やっぱりかなり体力を使いますし、頭の回転でも若さには勝てないですね。ジェンセンは逆で、彼の老練なテクニックというか、蓄積はすごいですし、そういう面ではまだまだ勝てないですね」

佐々木 「なるほど。なんかこんなふうに渡辺プロに色々質問できるのって、本当に贅沢ですね。なんでもうちょっと聞いていいですか。渡辺プロがプレイするときに意識していることってなんですか?」

渡辺 「うーん……プレイはできるだけ早くやる、とかですかね」

佐々木 「それは時間切れやスロープレイ(注16)しないように?」

渡辺 「それもあるんですけど、一番の理由は、早く終わらせて時間が余らないと、対戦相手と感想戦ができないからですね。相手のプレイがどういう意図だったかとか、自分のプレイに対する感想を聞いたりと経験値を貯められますからね。あと、感想戦に限らないんですが、どんな人の意見でも、頭ごなしに否定しないようには気をつけてますね」

佐々木 「より貪欲に理解度を高めようと」

渡辺 「自分と別の人の意見って、あってるあってないというよりも自分への刺激が大きいですからね。あとは、一番大事なのは、ゲームに真摯に向き合うことですね。フェアプレイも大事なんですが、それ以上に、ゲームへ真摯に向いあうというのは、自分の成長のためにも、そして僕が愛するこのゲームへの敬意としても絶対に心がけてます。結局、より真剣に向き合って受け止めようとしなければ、自分を向上させるだけのものに出会うことができないんですよ」

佐々木「なるほど~!本当にストイックにゲームに向き合われているんだなというのがわかって、感激しました」
 

●注釈

注11:八十岡翔太選手

2006年Player of the Year獲得。2015年マジック殿堂選出。通称「鬼神」「ヤソ」。

古くから関東草の根では名の通ったプレイヤーであったが、2005年世界選手権での好成績でプロツアー参戦資格を得たことから、2006年シーズンはプロツアーに継続参戦。プロツアーチャールストン2006を斎藤選手・鍛冶選手とのチーム「kajiharu80」で優勝したことも含め、当該シーズンの最優秀選手となった。その後もプロツアーへの参戦を続ける一方で2009年はマジックのネットゲーム、MagicOnlineに傾倒し、その年新設されたMagicOnline上でのPlayer of the Yearを獲得した。2015年現在で両最優秀選手獲得者は八十岡選手ひとり。
「カウンター」と「火力(直接ダメージ)」というマジックでも最も汎用性の高い2種類の呪文を敬愛し、これらのどちらか、もしくは両方をもっともうまく活用できる独自構築のデッキでプロツアーに参戦することが多く、コントロールデッキ嫌いでも、ファンにさせるだけの魅力的なプレイとデッキで国内外にファンが多い。
また、過去に公式サイトで掲載されていた「スタンダードウォッチング」における独自の視点からのメタゲーム分析・デッキ分析は記事掲載ごとに反響を呼ぶことでしられる。

現在は「Hareruya Pros」に所属している。

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注12:大山康晴

十五世名人。また、他に永世十段・永世王位・永世棋聖・永世王将と、合計5つの永世称号を保持する。
小細工を弄さない正攻法の棋風ながら圧倒的な戦績を残したことでしられ、特に名人獲得18期は歴代1位。また、当時の全タイトルである五冠独占時は、他の棋士にタイトルを全く渡さないほどの強さを誇った。
1990年に棋界初の文化功労者を顕彰。

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注13:升田幸三

実力制第4代名人。大山康晴とは終生のライバルと言われた。
「新手一生」を標榜し、その看板に違わず多くの新手を生み出し、将棋の戦略にイノベーションを起こし続けた。その功績から、新手や新戦法を編み出した棋士を表彰する「升田幸三賞」が設立されている。

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注14:シャハール・シェンハー

Shahar Shenhar。世界選手権2013・2014優勝。イスラエルのプレイヤー。
2015年現在で21歳と、マジック発売後に生まれた世代のプレイヤーの中でもトップを走る。二年連続の世界選手権優勝によって、その評価を確かなものとした。
2014年の世界選手権では、準決勝にて渡辺選手と対戦しており、ジェスカイトークンを使用する渡辺選手と、墓地利用デッキであるシディシウィップで下している。

準決勝:Shahar Shenhar(イスラエル) vs. 渡辺 雄也(日本)
http://coverage.mtg-jp.com/mtgwc14/article/011772/

また、2013年の世界選手権でも1日目の対戦がカバレージとして残っているが、こちらでも渡辺選手は敗北している。

第6回戦:フラッシュだけは御免だ! Shahar Shenhar(イスラエル) vs. 渡辺雄也(日本)
http://coverage.mtg-jp.com/mtgwc13/article/023164/

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注15:ウィリアム・ジェンセン

William Jensen。2013年殿堂選出。アメリカのプレイヤー。
かつてプロツアーと併設する形で開催されていた超上位プロプレイヤー限定の招待イベント、マスターズ。2000年にニューヨークで始まったこのイベントで初代王者となった2000年代前半を代表するトッププレイヤーの一人。
特に2003年は、シーズンをまたぐものの3つのプロツアーでトップ8入賞し、その中でもチーム戦で開催されたプロツアーボストン2003では優勝を果たしている。
殿堂顕彰した2013年を期にトーナメントシーンに復帰しており、プロツアー「マジック2015」でのトップ8入賞を始め、数々のグランプリでトップ8入賞・優勝を果たしている。

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注16:スロープレイ

トーナメントのマジックでは、各プレイヤーに適正なスピードでゲームをプレイする責任が課せられており、それを大きく逸脱した遅いプレイには『マジック違反処置指針(http://mtg-jp.com/rules/docs/JPN_IPG.html)』に従って【警告】が与えられる。
なお、誤解されやすいが遅延行為とスロープレイはルール上は別であり、故意ではないが適切ではないプレイ時間をかけてしまった場合に適用される。故意に時間を引き伸ばし、時間切れに拠る引き分けやそれに伴うマッチの勝利を狙った場合は遅延行為となり、罰則が【失格】となる。

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■マジックに恩返しを


佐々木「渡辺プロの次の目標はありますか?」

渡辺 「今は、来年権利を得られる殿堂投票で、殿堂入り(注17)できるだけの実績を重ねて、最高の形で殿堂入りしよう、というモチベーションでやっているんですけど、本当に殿堂入りさせてもらったら、そこで一気に目標を失って、なんとなく無気力な状況でマジックをやるようになってしまい、そんな自分を許せなくなって引退する、とか言い出しそうだなって、自分の性格的に(笑)」

佐々木 「個人戦プロツアー優勝とか、グランプリ優勝回数単独トップ(注18)を目指す、みたいな形で続けられないんですか?」

渡辺 「その辺は、一応、殿堂入り前に達成したいと思っている目標ではあるんですけどね。そうかも、ってだけの話ですので、本当に引退するつもりはないですよ」

佐々木 「それを聞いて安心しました」

渡辺 「でも、本当に引退することになったとしたら、残りの人生はマジックへの恩返しをしていきたいと考えてます。僕がマジックと出会ってなかったら、ただのアニメ好き(注19)だったわけですからね。こんだけ夢中になれて、色々な人との出会いを与えてくれて、先程から佐々木さんがおっしゃってくれてるような『プロとしての価値』まで与えてくれたこのゲームへは感謝の気持ちしかないですね。マジックと出会っていなかった人生なんて想像できないですね」

佐々木 「あぁ、それは僕でも思うんですよ。マジックと出会ってなかったら全然違う人生だったなって。今の仕事を始めるきっかけになったのも、実はマジックなんですよね」

渡辺 「そうなんですか?ちょっとマジックと結びつかないですけど……」

佐々木 「学生時代、マジックに夢中になっていた頃、とにかく情報が欲しくて、海外のデッキリストを見たい(注20)という理由で、インターネットのことをいろいろと勉強したんですよ。そうするうちに調べるだけでは物足りなくなって、ホームページも作り始めて、それが今の仕事にもつながってるんですよね。マジックに出会ってなかったらネットに出会うのはもっと遅かったかもしれないですし、そうしたら今の仕事をしていなかったかもしれないです」

渡辺 「佐々木さんがマジックを通じてネットにハマっていったのと同じように、僕の場合は草の根の大会、そしてプロツアーという形でトーナメントマジックにハマって行って、今の状態になったってことですね」

佐々木 「その頃から今に至るまでずっと続けているからこそ、今の渡辺プロの強さがあるんですよね。結局、愚直にやり続けている人が勝つんですよ。そして、渡辺プロの最大の魅力はそのストイックさでプレイヤーをやり続けられるところだなと、今日話していて感じましたね。なので、渡辺プロにはぜひとも殿堂入り後も引退せずやり続けて、さらにマジックというゲームの枠をも飛び越えた活躍を期待したいです」

渡辺 「本当にマジックに恩返しができるのならば、僕はできることはやりたいと思っています。ただ、今はトーナメントで勝つ、という以上の形でプロとしてどんなことができるのかわからないでいるんですよね。世間がプロである僕に、どんなことを求めているのかまだわからないんです。今までは、マジックのプロとしてやるべきことというのは、何をおいても結果を出すということだと思っていたんですが、僕が結果を出していることによって、僕自身がマジックのためにできることが増えたということがやっと理解できてきました

佐々木 「だからこそ、とにかくどんどん情報を発信していただきたいです、渡辺プロには。TwitterでもDiaryNoteでも。もちろん、LINE BLOGでやっていただけるのが僕としては一番嬉しいですけどね。僕も、今回渡辺プロとこうしてお話をさせていただいて、やっぱりこの人はもっと多くの人に知られるべきだ、という思いを一層強くしました」

渡辺 「なんか、なんだかんで、僕、この対談で大したことを、ほとんど言っていなかったような気もするんですけどね……」

佐々木 「そんなことはないと思いますが、やっぱり最後はプレイで語ろうということで、そろそろ対戦しますか」

渡辺 「せっかく持ってきましたからね。でも、ずっと言ってますけど、僕、こういう時でも手は抜けないので、よろしくお願いします」

佐々木 「いやぁ、うれしいなぁ、贅沢だなぁ。結局、僕、ただのファンなんですよね」



対談終了後、佐々木自身の希望で、渡辺のプロツアーデビューとなったグランプリ・京都で使用していた青赤トロンを使用。

渡辺は、一番思い入れが強いデッキということで、2008年大礒戦で使用していた青白ヒバリを選択する。

1戦目は、渡辺が完全に隙のないプレイをおこない、圧勝する。

佐々木 「いやぁ、強いなぁ……」

渡辺 「そもそも、時期が違うスタンダードなので、デッキパワーのベースが違いますよね」

そういいつつ、渡辺は佐々木へと、カウンターを使うタイミングについてのアドバイスを行う。

続けて行われた2戦目。

渡辺のアドバイスどおりにカウンターを使用していった佐々木は、接戦を繰り広げる。

しかし、やはり渡辺のプレイに油断はなく、徐々に有利を積み重ねていく。

渡辺 「アレはケアできないからな、この状況だと……」

渡辺の 《目覚ましヒバリ》 が佐々木の残りライフを削りきるかと思われたその時に、佐々木の土地がすべてタップされた。アレだ。

撃ち込まれたのは、渡辺がその名を時代に刻んだ 《悪魔火》 だった。



渡辺雄也・佐々木大輔特別対談:メディアとしてのプロプレイヤー(前編)

●注釈

注17:殿堂入り

2005年にプロツアー開始10周年を記念して設立されたプロツアー・マジック殿堂のこと。
生涯獲得プロポイントが250点以上であり、プロツアー初参戦から10年以上たった選手が殿堂選出投票の対象となり、マジック有識者で構成される投票委員会と、生涯獲得プロポイント100点以上のプレイヤーで構成されるプレイヤー委員会からの得票数を40%以上獲得することで選出される。
日本人では過去に6名が殿堂顕彰されている。

渡辺選手は06-07新人賞を獲得しているように、まだ選出対象となるためのプロツアー参戦10年が達成されていないため、資格を持っていない。

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注18:個人戦プロツアー優勝とか、グランプリ優勝回数単独トップ

プロツアーと実質同格のトーナメントであるプレイヤー選手権(現世界選手権)での優勝経験はあるのもの、プロツアートップ8入賞を3回しているがプロツアーそのものの優勝経験は無い。
渡辺選手のグランプリ優勝回数は7回。これはKai Buddeとタイ記録であり、また、中村選手がグランプリダラス・フォートワース2015で優勝したことで同じくタイ記録となった。
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注19:ただのアニメ好き

渡辺選手のアニメ好きは国内外を問わずプロプレイヤーの間では有名である。

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注20:海外のデッキリストを見たい

『デッキリストの完成度やアイディア』という情報の有無が勝率に直結するTCGの特性上、マジックは黎明期からネットとの親和性が高かった。『MAGIC:Dojo』というアメリカ各地の戦績を残したデッキリストを公開するサイトが作られたことで、それらのコピーデッキが蔓延する『Dojo効果』が問題視されると共に、ネット環境が整備されていない時代であったことからインターネット環境を持っているかいないかがトーナメント参戦時に大きく影響することとなった。
佐々木氏がリストを探したのもこの『MAGIC:Dojo』をはじめとした海外情報サイトであると思われる。
現在ではネット環境が整備されるとともに、デッキリスト情報も行き渡ることとなり、『Dojo効果』はさほど問題視されなくなるとともに『すでに公開されたデッキリストは誰もが知っていて対策されている』という環境が理解され、独自のテクニックを持ったデッキ構築の重要度が高まっている。プレミアイベントではそれが顕著であり、渡辺選手が2014年世界選手権前にデッキリスト非公開を選択したのもここに由来する。
また、一方で現在のマジックではMagicOnlineがオンラインゲームという特性上、24時間トーナメントが開催され続けており、それによってデッキ構築のトライ・アンド・エラーのサイクルが圧倒的に早くなり、時には開発の想定以上のスピードでメタゲームが煮詰まってしまう『MO効果』とでも言うべき現象が発生しており、これを念頭に置いてか、かつては公式サイトにて原則的にすべて行われていたDaily Eventの上位デッキリストの公開が制限されるようになっている。

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